個人事業主が持ち家を自宅兼事務所として利用している場合、家賃は発生しませんが、事業に必要な部分に限って関連費用を必要経費として計上できます。
このとき重要になるのが、事業と私生活の双方に関わる支出を合理的な基準で分ける「家事按分」です。
家事按分の根拠が不明確な場合、税務調査等で経費計上が否認される可能性があります。
本記事では、持ち家で経費にできる費用の範囲、家事按分の考え方、住宅ローン控除との関係、将来売却時の注意点について解説します。
個人事業主の持ち家は経費にできる?家事按分の基本
自宅を事業にも使用している場合、事業運営のために直接必要な支出は、必要経費として計上できます。
ただし、自宅は生活の場でもあるため、関連費用の全額を経費にすることはできません。
そこで、事業と家事の両方に関係する支出(家事関連費)について、事業に必要な部分だけを合理的に区分して計上する方法が家事按分です。
持ち家で経費に計上できる主な費用
自宅兼事務所では、次のような費用が家事按分により経費計上の対象となります。
いずれも事業使用割合に応じて計上します。
- 建物の減価償却費
- 固定資産税・都市計画税
- 住宅ローンの利息(事業に必要な部分)
- 火災保険料・地震保険料
- 水道光熱費(電気・ガス・水道代)
- 通信費(インターネット・固定電話等)
- 自宅の修繕費(資本的支出との区分に注意)
※家事関連費の考え方については、国税庁の見解が基準となります。
No.2210 必要経費の知識|国税庁
建物の減価償却費
建物の取得費は、取得した年に全額を経費にするのではなく、法定耐用年数に応じて各年に配分して費用化(減価償却)します。
減価償却の対象となるのは建物部分のみで、土地は対象外です。
算出した年間の減価償却費に、事業供用割合を乗じた金額を必要経費として計上します。
No.2100 減価償却のあらまし|国税庁
固定資産税・都市計画税
固定資産税・都市計画税についても、事業で使用している割合に応じて経費計上が可能です。
納税通知書の税額をもとに、床面積割合などの合理的な基準で事業負担分を算出し、計算根拠資料は保存しておきましょう。
住宅ローンの利息部分
住宅ローン返済額のうち、元本返済部分は経費になりません。
一方で、利息部分については家事関連費として、事業に必要な割合を按分して経費計上できます。
年間の支払利息は、償還予定表などで確認し、計算根拠を残しておくことが重要です。
住宅ローン控除との関係については、後述の注意点も確認してください。
火災保険料・地震保険料
火災保険料・地震保険料も、事業使用割合に応じて経費計上が可能です。
複数年契約で一括払いしている場合は、原則として期間配分した上で家事按分を行います。
保険証券などの証憑は必ず保管しましょう。
水道光熱費(電気・ガス・水道代)
水道光熱費は、床面積割合だけでなく、使用時間などの基準で按分することも考えられます。
特にガス代や水道代は、事業内容によっては私用割合が高いと判断されやすいため、業務実態に沿った合理的な根拠を用意しておくと安心です。
通信費(インターネット・固定電話代)
通信費も共用の場合は按分が必要です。
使用時間や回線の利用状況などを基準に按分します。
事業専用回線がある場合は、全額を経費計上でき、経理処理も簡潔になります。
自宅の修繕費
事業用スペースに関する修理や原状回復費用は、必要経費となる可能性があります。
ただし、建物の価値を高めたり、耐用年数を延長させる支出は「資本的支出」として扱われ、減価償却の対象となる点に注意が必要です。
家事按分の計算方法(面積・時間)
家事按分では、税務署に説明できる客観的で合理的な基準を用いることが重要です。
家事関連費は、事業使用割合が50%以下であっても、必要部分を明確に区分できれば経費算入が認められています。
面積で按分する方法
「事業用スペースの床面積 ÷ 自宅全体の床面積」で計算します。
減価償却費、固定資産税、保険料など、建物全体に関わる費用に用いられることが多い方法です。
時間で按分する方法
電気代や通信費など、使用状況が時間に連動しやすい費用では、時間按分が合理的な場合があります。
業務スケジュールや稼働記録があると、説明がしやすくなります。
持ち家を経費計上する際の注意点
1)住宅ローン控除と併用できないケースがある
住宅ローン控除は、床面積の2分の1以上を自己の居住用に供していることが要件とされており、居住用部分が2分の1未満となる場合、住宅ローン控除は適用できません。
一方、居住用部分が2分の1以上であれば、住宅ローン控除を受けながら、事業利用部分については家事按分により経費計上が可能です。
また、事業利用が付随的で、居住用部分がおおむね90%以上を占める場合には、実務上、住宅ローン控除を全額適用できるケースもあります。
(租税特別措置法41条の29/国税庁の取扱い等を踏まえた実務整理)
第41条((住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除))関係|国税庁
経費計上による節税と住宅ローン控除のどちらが有利かは、状況によって異なるため、比較して判断することが重要です。
2)事業使用割合の根拠を明確に
按分割合は、自由に決められるものではなく、合理性・客観性が求められます。
間取り図、床面積の計算資料、業務時間の記録などを保存しておくと安心です。
3)証憑(領収書・契約書等)の保存
固定資産税の納税通知書、ローン返済予定表、保険証券、光熱費・通信費の明細などは保存が必要です。
保存期間は申告区分や書類の種類によって異なり、白色申告であっても帳簿の種類によっては7年保存が求められる場合があります。
4)将来売却時の特例に影響が出る
マイホーム売却時の3,000万円特別控除は、原則として居住用部分に限って適用されます。
店舗併用住宅などでは、事業用部分は対象外となる可能性があります。
ただし、居住用部分が全体のおおむね90%以上の場合には、全体を居住用として扱えるケースもあります。
また、事業用部分について減価償却を行っていると、取得費の計算に影響し、譲渡所得や税額が変わる点にも注意が必要です。
よくある質問
住宅ローン控除と経費計上はどちらが得?
こちらは一概に断定することはできません。
居住用要件(居住が2分の1以上)を満たしているかを確認した上で、経費計上による節税額と住宅ローン控除の控除額を比較して判断するのが合理的です。
持ち家を売却する時に税金が高くなるのは本当?
事業利用している場合、売却時の税金が高くなるケースがあります。
居住用部分は3,000万円特別控除の対象となりますが、事業用部分は対象外となる可能性があります。
また、事業用部分は居住用とは異なる耐用年数で減価償却されるため、建物の帳簿価額が下がり、売却時の譲渡所得や税額に影響が出ることがあります。
まとめ
持ち家を事業に利用している場合、減価償却費、固定資産税、利息、保険料、光熱費、通信費、修繕費などを、家事按分により事業分のみ経費計上できます。
重要なのは、面積や時間などの合理的な基準で按分し、根拠資料を保存することです。
一方で、住宅ローン控除の居住用要件や、売却時の特例への影響もあるため、将来を見据えて総合的に判断する必要があります。
経費計上についてご不明な点がございましたら、ぜひDIG税理士法人へお気軽にご相談ください。
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